なんで、こいつを好きになったの?
そんなの、俺が聞きたいよ
でも、しょうがないじゃんか…
好きになってしまったんだもん…辛くても…
『痛くて苦しくて辛くて 幸せで』
「じゃあ、栄口、あとよろしくな!」
「はいよー」
今日は俺が日誌当番の日
書いてからでないと、帰ることができない
だから、必然的に、一番最後に部室を出る
皆先に帰っている
今、残っているのは、三橋と、阿部と、水谷だけ
三橋は着替えるのが遅くって、阿部はそれを待っている
水谷は…何やってるんだろうか…?
そんな3人を横目に、担当者名、日付、天気、今日の出欠表の記入などをしている
すると、三橋がようやく着替え終わったのか、鞄を持ってドアに近づく
「じゃあ、俺ら先に帰るな」
「あ、うん、気をつけてねー」
「さ、かえぐち、くん、もっ!!」
「はは、ありがとなー、三橋」
「うひっ」
手をひらひらと2人に振る
部室に残るは、俺と水谷の2人になった
「…水谷は何をしてるの?」
「え、あー、うん」
「意味分かんね…」
「あのさ、…」
「なに?」
なんだかはっきりしない水谷に、俺はきっぱりと聞く
「あの、一緒に帰らない…?」
「え、あ、いいよ、ちょっと待ってて…」
珍しいこともあったもんだ
いつもなら、つかれたーと言って、さっさと帰ってしまうのに
まぁ、それが少しさみしいなと思う時もあるわけで…
俺は、水谷が好き…なんだと思う
その気持ちが、定まっていないのは、やっぱり水谷が『男』ということ
俺は、なんでこいつが好きなのか…
別に、男色家というわけでもなく、普通に「あの子可愛いなぁ」とか、女子を見て思う
でも、なぜかわからないけれど、水谷といるときゅうって胸が苦しくなってしまう
このことは、俺一人の秘密
誰にもしゃべってはいけない
しゃべったら、水谷に迷惑がかかってしまう
それで傷つくあいつの顔を、俺は見たくない
だから、内緒
俺の中にある、木箱に入れておく
でも、鍵だけは閉めないで、そのままにしてある
それが、とてもきゅうきゅうと苦しませるということを分かっていても…
「栄口」
黙々と日誌を書いている俺に話かけてくる
「なに?」
「最近の栄口、…なんか避けてない?」
「なにに対して?」
「……俺に対して」
ぴたりと、ノートに走らせていた筆を動かす腕を止めた
下を俯いたまま、口を開く
その開くときの口が重い、そう感じた
「な、はずないじゃん」
「…嘘」
「なんでさ、そんなの、なんで水谷にわかるの?」
「わかる」
「俺の…なにがわかるのさ」
そうだ、お前に俺の何がわかるんだよ
こんな、自分でも本気で気持ち悪いと思ってしまうようなやつの気持ちなんて
もう、痛いよ…苦しいよ……辛いよぉ…
「わかるんだもんっ!!」
その声が聞こえたとたん、目の前が薄暗くなった
体全体を暖かな温度が包み込む
水谷が抱きしめている…?
「お、まえ…っ」
「だって…だって、俺、栄口のこと、好きだもんっ!!」
「っ?!」
「ずっと、ずぅっと…っ好きなんだもん」
段々、声が小さくなっていく
水谷の手が、少し震えているのがわかる
あぁ、怖いんだ…と思った
「だからっ、最近なんか冷たくて…、心配で…っ」
「…ご、めんね?」
「え、」
「ごめんね…っ、ごめん…ねっ」
知らないうちに俺の瞳からは、涙がぽろぽろと流れていた
ぎゅっと、目を瞑ると、だぁっと涙があふれる
ひくっと嗚咽を交えながら、水谷に謝る
「そん、な気持ちにしたくって、冷たくしてたんじゃな、かった、ひっく、のにっくっ」
「栄口…?」
「俺、は、水谷の悲しい顔を、見たくなかったのっ」
「……」
「なのに、なのに…俺っうぁっ」
「…ねぇ、教えて?」
「な、に…?」
「なんで、栄口は俺に悲しい顔をしてほしくなかったの…?」
友達としてだから?と最後に小さく水谷は呟いた
友達として…なんかじゃない、そんなきれいな気持ちじゃないよ
…俺はね…、
「俺は…っ、水谷が、好き…っ、なんだよっ」
「え…、嘘っ」
「ほんとだよ、馬鹿ぁぁぁあっ!!」
また、涙腺が決壊する
わんわん泣いている俺に、戸惑う水谷
「わ、泣かないでよ、栄口ぃっ」
「ふ、えぁっく、…んっ」
目の前にどアップの水谷
唇には柔らかい感触
軽いリップ音を鳴らして離れるその感触
「~っ?!お、まえっ!!!」
「えへっ、泣きやんでくれたぁ」
にへらっと、頬をちょっと赤く染め、目じりを下げて笑う水谷を見て
余計に恥ずかしくなってしまう
俺の頬は一気に真っ赤になってしまう
「だからって…っ、いきなりするなよ、馬鹿っ!!!」
「えぇぇ?!」
ふいっと、水谷から顔全体を横に逸らす
そして、水谷は必死に俺に謝ってくる
その姿が、あまりにも可愛かった
「ごめんね、ごめんねぇぇぇっ!!」
「…もういいよっ!日誌、もう書き終わったから、帰るぞっ」
「あ、うんっ!」
鞄を持って、ドアの方に歩いて行く
ガチャリと、ドアを開けると、そこには…
「………なんで泉と浜田さんがいんの?」
「……よっ」
「あ、はは、栄、口…」
「どっから聞いていたのかな?」
「ほとんど最初から」
「ごめんな、栄口ー」
「…も、馬鹿ぁぁぁぁぁぁあっ」
恋って、やっぱ痛くて、苦しくて、辛くて…
でも、それと一緒に…
とっても、とっても…
「栄口っ!早く帰ろうよー」
「…あぁ!」
幸せで…
End